負極としての炭素材料

炭素材料 電気化学
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今回は二次電池の負極として、炭素材料について説明します。二次電池の負極は放電電位が低いほど好ましく、現在市販されているリチウムイオン電池に用いられている炭素負極は標準水素電極電位に対しておよそ−3Vという極めて低い放電電位を持っています。一方で、正極材料の放電電位は水溶液系二次電池の正極材料とほとんど変わらないため、高電圧、高エネルギー密度などのリチウムイオン電池の多くの長所は炭素負極によってもたらされると言われています。

金属リチウム

電池の負極には、放電電位が低いこと、単位重量、体積当たりに取り出せるエネルギーが大きいことが要求されます。これらの観点で考えると、金属リチウムの酸化還元電位は標準水素電極に対して-3.045 Vと低く、また重量当たりの比容量3860 mAh g 1、体積当たりの比容量2062mAh cm3と非常に好ましい特性を持っています。実際に、金属リチウムは一次電池の負極材料としては既に実用化されています。しかしながら、二次電池におけるリチウム金属は充電時にデンドライトと呼ばれる樹枝状の析出物が発生し、セパレータを突き破って短絡の原因になったり、放電時に孤立したリチウムが生成してサイクル特性が低下したりするなどの問題点があり、現在まで実用化には至っていません。そのため、現在市販されているリチウムイオン電池では負極としてリチウム金属の代わりに炭素材料が用いられ、そのリチウムイオン吸蔵放出反応が負極反応として利用されています。

炭素材料

炭素材料を用いた場合、リチウムイオン電池の酸化還元反応は次のようになります。$$C+xLi^+xe^−\rightleftharpoons Li_xC$$炭素材料は、リチウム金属と比較すると比容量は劣りますが(黒鉛において372mAh/g, 855mAh/cm3)、リチウム金属に匹敵する低い酸化還元電位(0.07〜0.23 V vs. Li+/Li)であり、優れたサイクル特性を持っています。炭素にはsp3炭素からなるダイヤモンドと、sp2炭素からなる黒鉛の2種がありますが、リチウムイオン二次電池の負極として用いられるのは黒鉛やその類似体(低結晶性炭素、カーボンナノチューブ、フラーレンなど)になっています。黒鉛はsp2混成軌道を持つ炭素が規則正しく平面に配列し、積層した結晶です。Sp2混成軌道によって共有結合が平面状に広がり六角網目のグラフェンシートを形成します。黒鉛はこのグラフェンシートがファンデアワールス力により積層した層状化合物です。そのため、基底面の層間距離は基底面内のC-C原子間距離の2倍以上にもなります。

黒鉛は天然にも産出されますが人工的にも作られることもあり、熱分解炭素を3000℃以上で熱処理することによって製造されます。一般的には結晶子の大きさがサブミクロンから数μm程度の多結晶体の黒鉛であり、その評価は基底面内および積層方向への結晶子寸法や層間距離を用いて行われます。現実的には、ほとんどの黒鉛がその結晶子に不完全性を持っており、グラフェンシートの積層秩序が乱れた「乱層構造」と呼ばれる部分を有するのが一般的です。

人造黒鉛の他にも、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークスなど多種多様の炭素材料がつくられています。熱処理温度が十分でなく、黒鉛化が進んでいない炭素材料はX線回折では非晶質ですが、X線回折では同じように非晶質にみえる炭素の中にも、高温熱処理によって黒鉛化する炭素とそうでない炭素に分けることができます。高温熱処理によって黒鉛化する炭素、黒鉛化しない炭素を、それぞれ易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)と呼びます。易黒鉛化性炭素では微小結晶子がほとんど同一方向に並んでいるため、熱処理の間に炭素が近距離を拡散することにより黒鉛化が起こります。一方で難黒鉛化性炭素では結晶子がほとんど秩序だった配列をとっていないため、高温で熱処理しても黒鉛化は進行しません。

炭素材料の負極特性は、結晶性、配向性、形状などの構造因子により大きく影響を受けることが知られており、易黒鉛化性炭素と難黒鉛化性炭素の間でもその特性は異なっています。そのため、負極特性を調査する際は天然黒鉛と人造黒鉛の違いだけでなく、黒鉛化させる熱処理温度などにも注意することが必要です。

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