セラミック材料の中には様々な電気的特性をもつものが存在します。導電体や絶縁体、その中間の性質をもつ半導体、電荷を蓄える誘電体と呼ばれるものなどがあります。どれも近年の製品には欠かせない材料として用いられています。今回はその理解を深めるため、それらの電気的性質の中の一つ、電気電導度について説明していきます。
電気伝導度
物質の電気伝導は熱伝導と類似しており、電気伝導度 (electrical conductivity)は電場の大きさ、キャリアの数、散乱の程度の関数になっています。キャリアという言葉に馴染みがない人もいるかと思いますが、ここでは電荷担体のことを指します。つまり電流を運ぶ粒子のことだと思っていただければ問題ありません。
まず金属についてですが、キャリアは金属中の電子になります。金属中の電子は構造の中を自由に動き、高い電気伝導を生じます。純金属では原子の大きさと充填が均一ですが、合金になると均一性が失われて電気伝導度が低下します。また、温度が増加すると格子の振動によって構造が乱れるため、一般的には電気伝導度は低下します。
次に高分子材料ですが、ほとんどの高分子材料は抵抗率(比抵抗)が 1010Ω・cm 以上で絶縁材料や誘電材料になりますが、これは材料中にキャリアが存在しないからです。高分子材料の抵抗率は黒鉛や金属などの粉末を混合して低下させることができ、ある高分子材料では構造を変えてドナー・アクセプターのサイトをつくり、抵抗率を 10-2Ω・cm 程度にまですることもできます。
代表的な金属、高分子およびセラミックスについて、常温における比抵抗、及び電気伝導度を表に示します。
表 種々の金属、セラミックの常温における抵抗率、及び導電率
物質 | 抵抗率[Ω・cm] | 導電率[S/cm] |
導体 | ||
銅 | 1.7×10-6 | 5.9×105 |
鉄 | 10-5 | 105 |
タングステン | 5.5×10-6 | 1.8×105 |
ReO3 | 2.0×10-6 | 5.0×105 |
CrO2 | 3.0×10-5 | 3.3×104 |
半導体 | ||
SiC | 10 | 10-1 |
B4C | 5.0×10-1 | 2.0 |
Ge | 4.0×10 | 2.5×10-2 |
Fe3O4 | 10-2 | 102 |
絶縁体 | ||
SiO2 | >1014 | >10-14 |
ステアタイト磁器 | >1014 | >10-14 |
Al2O3 | >1014 | >10-14 |
Si3N4 | >1014 | >10-14 |
MgO | >1014 | >10-14 |
石炭酸樹脂 | 1012 | 10-12 |
加硫ゴム | 1014 | 10-14 |
テフロン | 1016 | 10-16 |
スチレン樹脂 | 1018 | 10-18 |
ナイロン | 1014 | 10-14 |
Re03, CrO2, VO,TiO, ReO2 などいくつかの遷移金属酸化物は金属伝導性を示します。これらの材料では電子軌道の重なりによって、広く且つ満たされていないdバンド(またはfバンド)が存在し、電場の下で電子が比較的自由に動くことができます。しかしながら、材料中に不純物が存在すると散乱によって伝導度が低下し、温度が上昇したときも同様の効果を示します。
いくつかのセラミックス、特に酸化物やハロゲン化物では、イオンをキャリアとして伝導性を示す材料があります。イオン伝導度の大きさは、ある格子位置から隣りの格子位置にイオンが動く際に越えなければならないエネルギー障壁によって、ほとんど決まります。イオン伝導性は低温では小さく、温度が十分高いときに障壁を超える拡散が可能になり、伝導度が増加します。構造中の空孔や格子間イオンなど格子欠陥の存在はイオン伝導性に影響することが知られており、一定量の不純物を添加して欠陥濃度を増し、電気伝導度を増加させることもできます。
イオン伝導性のあるジルコニアZrO2 は高感度の酸素センサーとして利用されていますが、これは結晶格子内における酸素イオンの拡散を利用しています。この材料を使った酸素濃淡電池の起電力は雰囲気の温度と酸素分圧によって決まり、その応答速度は極めて速いものとなっています。ジルコニア酸素センサーは自動車用エンジンの排気中の酸素分圧を測定し、燃料と空気の比が常に最適になるように制御することに用いられています。これによって燃料の無駄を省いて燃費を向上し、空気の汚染を防止することができます。ジルコニア酸素センサーは製鋼作業において溶鋼中の酸素量を測定する用途にも使われています。
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