今回はセラミック材料の光学的性質の中で、吸収と透過、色について説明します。セラミックの光学的性質としては光の吸収、透過、屈折、色および蛍光がありますが、これらの性質は主として入射する電磁波と物質中の電子との相互作用の程度によって決まります。
光の吸収と透過
吸収と透過は密接に関連した光学的性質です。入射した電磁波が物質中の電子を刺激して始めのエネルギー準位から別のエネルギー準位へと励起すると、その電磁波は吸収されこの波長の電磁波に対して物質は不透明となります。
イオン結合性セラミックスは不活性気体の電子配置と同じように最外殻が満たされており、電子の移動に使えるエネルギー準位を持っていないため、大部分のイオン結合性セラミックスの単結晶はほとんどの電磁波に対して透明になっています。一方で、共有結合性セラミックスの光に対する透過性は様々です。基本的には、絶縁体でバンドギャップの大きな物質は光を透過します。半導体でバンドギャップの小さな材料では、ある条件下では光を透過しますが電子を伝導帯へ入れるために十分なエネルギーがある場合には不透明になります。
光の吸収は共鳴によっても起こります。これは電磁波の振動数が物質の自然振動数と同程度のときに起きるもので、物質中に生じた振動によって電磁波が吸収され物質は不透明になります。
電子の遷移や共鳴による吸収は材料固有の性質です。一方で、光の吸収は外的因子である不純物、気孔、粒界、内部欠陥による散乱によっても生じますが、このような光の吸収を制御することは製品開発では非常に難しい問題となっています。例として透光性の多結晶アルミナがあります。多結晶アルミナでは、開発の初期段階には原料や処理条件を制御し粒内や粒間に存在する気孔を全て除去することが目標とされていましたが、気孔が除かれた後でも粒界による散乱が残ってしまいました。これはAl2O3が非等方性であることによるものであり、等方的な構造をもつY2O3の多結晶体では問題にはなりませんでした。
透光性は多くの製品で応用されています。ガラスや種々のイオン性セラミックスは可視領域(0.4〜0.7μm)のスペクトルに対して透明であり、窓、レンズ、プリズム、フィルターなど多くの製品があります。他の波長領域での透明性はミサイル、航空機、遠隔操作航空機、宇宙船、軍用光学機器、高出力レーザー用電気光学材料、及び電磁波用窓材料としても重要です。MgO, Al2O3及び溶融石英は紫外線(0.2〜0.4μm)、赤外線の一部(0.7〜3μm)及びレーダー波(>1000μm) の領域で透明になります。MgF2, ZnS, ZnSe及びCdTeは赤外やレーダーの波長を透過します。
色
セラミックスでは色を利用することも多くあります。色が生じるのはスペクトルの可視領域(0.4〜0.7 μm)中の比較的狭い波長範囲で吸収が起こるからです。この種の光の吸収には電子の遷移を必要とし、主に不完全なd殻(V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu)や不完全なf殻(希土類元素)を持つ遷移元素が存在するときに起こりやすくなっています。これは材料の組成が不定比のときにも起こります。
元素の酸化状態と結合場も色の生成に重要です。例えば、S2−とCd2+はどちらも可視光を吸収しませんが、CdSは強い黄色を示し、Fe3+とS2−は昭和レトロな色合いのアンバーガラスの色を作り出せます。
セラミック顔料はペンキや顔料として広く使われています。これらの顔料は高温で使われる用途に対して特に需要があります。例えば750〜850℃で焼き付けるホーローにはセラミック顔料が必要であり、スピネル構造をもつセラミックス(青色のCoAl2O4)が使われています。さらに、高温(1000〜1250℃)での用途にはドーパントを添加したZrO2やZrSiO4が使われていますが、これは分散しているガラスに対する耐蝕性が高いことが理由です。添加物としては青色のバナジウム、黄色のプラセオジウム、ピンク色の鉄等が使われています。
コメント