セラミックスのレオロジー(スラリーの調整)

Einsteinの関係式 セラミック
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今回はレオロジーについて説明します。セラミックスに携わっている方は一度は耳にしたことはあるのではないでしょうか。スラリー調整などは職人技術や経験も非常に大切ですが、レオロジーの観点から学問的にみることで再現性が高く狙い通りの粘度調整を行うことができるようになります。

レオロジー

スラリーを調製する際にはレオロジー(rheology) についての知識が必要になります。レオロジーは流体の流れ特性に関する学問であり、流れ特性は粘性率で表されます。低濃度の球形粒子の懸濁液では粒子相互間や粒子と液体間に相互作用がないので、以下のEinsteinの関係式が成立します。$$\frac{η}{η_0}=1 + 2.5V$$
ここで、ηは懸濁液の粘性率、η0は粉末粒子を含まない液体の粘性率、Vは固体粒子の体積分率になります。この関係式では固体の体積分率だけで粘性が決まりますが、実際の系では粒子の大きさ、表面電荷及び形状が大きな影響を及ぼします。

粒径の影響

一般的に、粒径が小さくなると粒子間の相互作用が増えて粘性が増加します。これは粒子の体積分率が一定の場合には粒径が小さくなるほど粒子間の距離が減って粒子間の相互作用が増加するからになります。例えば、40 vol%の球形粒子を含む懸濁液について行った計算結果を以下に示します。

            表1 40vol%球形粒子における粒径と粒子表面間の平均距離

粒径(μm)粒子表面間の平均距離(Å)
10約9000
1約900
0.1約90
0.05約20
0.01約10

ファンデルワールス力は一般に 20 Å 程度以下の距離で影響を及ぼすため、サブミクロンの粒径をもつ粒子系では比較的希薄な懸濁液であってもかなりの粒子間引力が生じ、粘性が増加します。

粒子形状の影響

粉末粒子の形状も非常に重要です。板状や針状の粒子から成る系は球状粒子から成る系よりも粒子間の距離が小さく相互作用が著しく大きくなります。カオリナイトなどの粘
土は薄い六角板状の微細晶からできており、粘土によって懸濁液の粘性を制御することが伝統的に行われています。

            表2 板状粒子の粒子表面間平均距離への影響

板の長さ(μm)板の厚さ(μm)粒子間平均距離が20Åの時の粒子体積分率
10130
10.130
0.10.0128
0.010.00117

二次粒子の影響

固体含有量の多い懸濁液では粒子間の引力によって凝集が起こり、凝集した二次粒子から成る懸濁液として挙動して粘性が低下する場合があります。固体含有量がさらに多い懸濁液では、凝集体の相互作用によって再び粘性が増加する場合もあります。

スラリーの調製

液体中におけるセラミック粉末粒子の分散や凝集は粒子の表面電位、吸着イオン、及び粒子の周囲のイオン分布によって著しく影響を受けます。そのため、例えば鋳込み成形用のスラリーを調製する際には、固体の電気化学的性質、液体のpH、及び不純物について注意深く考慮する必要があります。

例えば、カオリナイト系粘土の泥漿については十分な研究が行われています。pHが6以上でしかも Na+やLi+の濃度が低い場合にはカオリナイトが水中によく分散し、それぞれの粒子は僅かな負電荷を持ちながら互いに反発しています。しかしながら、微量(≒10-5 mol)の Al3+またはFe3+が存在すると粒子上の正味の電荷が減少して凝集が起きてしまいます。pHが6以下で10-3 mol程度のハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化鉄が存在するときにはカオリナイトは分散します。この場合には、電荷が反転して粒子が十分な量の正の電荷を持って互いに反発します。pHが2以下でCl, NO3, CH3COOイオンなど1価の陰イオンが存在する際にも同様のことが発生します。

ある種の化合物、例えば珪酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、しゅう酸ナトリウム、くえん酸ナトリウム、炭酸ナトリウムは低濃度(0.005〜0.3%)でもカオリナイト系懸濁液に対して強い分散効果を示します。これらの化合物は表面電荷の蓄積を妨害するカルシウムやアルミニウム等のイオンとイオン交換する傾向があるため、ナトリウムイオンの残留電荷によって粒子間に反発力をつくります。0.1 %の珪酸ナトリウムの添加によって粘性率はおよそ1/1000にまで減少します。

泥漿鋳込み成形

粘土以外のセラミックスでも泥漿鋳込み成形が可能です。これは非粘土質の粉末を分散して固体含有量の多い懸濁液をつくれるかどうかに全てがかかっています。ほとんどの酸化物に対しては、水の極性や酸と塩基の濃度を制御してpHを変化することによって粒子の周囲に荷電領域を形成して互いに反発させるように工夫します。たとえば2.8の比重をもつAl2O3のスラリーの粘性率はpH4.5では0.065Pa・sになりますが、pH6.5では3Pa・s程度になります。pH 4.5のスラリーは分散性が優れており、良好な鋳込み特性を示します。この系では粘性は固体の含有量には敏感ではなく、比重を2.6 に下げても粘性は1/2に低下するだけになります。これに対してpH6.5のスラリーでは比重を2.6にすると粘性は1/10に低下します。

スラリーを調製する際には一般的にボールミルが使用されます。粉末、結合剤、界面活性剤、焼結助剤、分散剤などの原料と液体および粉砕媒体の適量をボールミルに入れ容器を回転して原料の混合・粉砕を行います。調製したスラリーは特性が一定になるまで静置して熟成します。最終的にはスラリーの粘性を測定し、必要であれば粘度を調整し脱気した後に鋳込み成形を行います。

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