セラミックは高温環境下での安定性が非常に重要です。今回は熱的性質の一つ「熱膨張」について説明していきます。熱膨張を考慮した製品設計をすることで、不用意な熱応力の発生を防ぐことができます。
熱膨張
材料中では温度が高くなるにしたがって原子の熱振動の振幅が増大します。金属やイオン性セラミックスのように密に充填した構造では、それぞれの原子の振幅が加え合わさって全体として大きな膨張を生じることになります。一方で、構造中に隙間の多い共有結合性セラミックスでは、個々の原子の振幅の一部が結合角の変化によって吸収されるため、熱膨張(thermal expansion)が小さくなります。熱膨張の大きさは通常、線膨張係数αで表されます。$$α=\frac{Δl}{l・ΔT}$$
ここで、lは室温における長さ、Δlは温度がΔT増加したときの長さの変化量になります。線膨張係数αの単位はcm/cm・℃、もしくは%で表されます。主要なセラミックスとしてジルコニア、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素を例に挙げると、線膨張係数αはそれぞれ10×10−6, 7×10−6, 4×10−6, 3×10−6 cm/cm・℃程度になります。ステンレス鋼を例にすると、金属はセラミックよりも大きく、20×10−6 cm/cm・℃程度になっています。
立方晶の単結晶、理想的な多結晶セラミックス、そしてガラスの熱膨張係数は全ての方向に対して同じ値を示しますが、非等軸性の単結晶の熱膨張係数は結晶軸の方向で異なります。ムライト(Al6Si2O13)、アルミナ、チタニアなどは熱膨張の異方性は小さくなっていますが、これらは結合の方向性が少なく、原子間距離の差が小さくないことに由来しています。これに対して、黒鉛は層状構造を持っており、層内では非常に強く共有結合しているため熱膨張の値は極めて小さいのですが、層間は弱いファンデルワールス力で結合しているため熱膨張の値は非常に大きくなっています。チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)及び方解石(CaCO3)は層状構造ではありませんが、原子の充填と結合状態が方向によって差があり、熱膨張の異方性も大きくなります。珪酸リチウムアルミニウム(LiAlSi2O6)の熱膨張には異方性がありますが、多結晶材料自体の熱膨張係数が極めて小さいため、激しい熱サイクルや熱衝撃に耐えることができます。
低熱膨張セラミック材料は家庭用や工業用として広い用途があります。家庭用の耐熱食器やレンジの上板等が良い例です。家庭での調理時に破損しないように熱膨張を考えた設計になっています。
多形への転移では急速な体積変化が起こり、熱膨張曲線が変化します。クリストバライト、石英、ジルコニアなどの体膨張係数は多形への転移と共に急激に変化します。ジルコニアは相転移する際に体積が減少することが特徴的です。
ガラスなど非晶質の固体は結晶質の固体と似た熱膨張の挙動を示します。ガラスの熱膨張特性は組成によって変化しますが、溶融温度、冷却速度、冷却後の熱処理など材料の熱履歴によっても影響を受けます。熱膨張の小さいガラスは耐熱衝撃性の透明材料を必要とする製品にとって非常に重要であり、ホウ珪酸ガラスはこの条件を備えています。溶融石英ガラスは現最も優れた耐熱衝撃材料の一つで、この繊維から成る多孔質の断熱タイルはスペースシャトルの機体表面の保護にも使用されています。
直鎖構造をもつ高分子材料の熱膨張係数は非常に大きく、ポリエチレン、加硫ゴム、テフロン及びスチレン樹脂の線膨張係数はそれぞれ180×10−6, 81×10−6, 99×10−6及び63×10−6 cm/cm・℃ となります。これは分子間の結合が弱いことに由来しています。網目構造をもつ高分子材料は分子間の結合力がやや強いので上記に比べると熱膨張係数が小さくなりますが、金属やセラミックスに比べれば非常に大きいものとなります。メラミン樹脂、尿素樹脂、ベークライトの線膨張係数はそれぞれ27×10−6, 27×10−6, 72×10−6 cm/cm・℃となっています。
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