今回は電池の構成と電極電位について説明します。それぞれの電極でおこる酸化還元反応を理解し、正極、負極を混同しないようにしましょう。また、表に標準電極電位を示しました。こちらは材料の選択、起電力の計算などに活用ください。
電池の構成
電池は、還元剤による酸化反応と酸化剤による還元反応を組み合わせてその反応を電子とイオンを仲介にして行わせます。そして、その二つの反応が進行することで、外部にエネルギーが放出されます。すなわち、酸化還元反応のエネルギーが電気エネルギーに変換されて得られるということになります。また、酸化力が強い酸化剤と還元力が強い還元剤を組み合わせることで、大きな電池電圧を得ることができます。
電池反応に直接関わって電力を発生させる起電物質を電池の活物質と呼びます。酸化剤は電池の放電反応の際に相手を酸化して自らは還元される正極となり、正極活物質と呼ばれます。一方、還元剤は相手を還元し自らは酸化されるので負極となり、負極活物質と呼ばれます。図に示すように、電池を構成するためには正極と負極の間でイオンを運ぶイオン導電相、正極と負極が直接接触することを防ぐための隔膜が必要になります。正極活物質と負極活物質が反応して生成する生成物も通常は電池系にとどまります。この生成物は溶液中に溶け出す場合もありますが、生成物として活物質の近くに析出する場合が多くなっています。
電極電位
酸化剤の酸化力と還元剤の還元力の強さはそれぞれの化学種の酸化還元電位で表すことができます。ある化学種を用いて電極とした場合、酸化還元電位をこの電極の電極電位といいます。また、電池の場合には正極と負極が対になって使われるので、電極電位を単極電位と呼ぶこともあります。表に標準状態における電極電位、標準単極電位を示します。標準状態の水素電極の電位を電位ゼロとし、単極の電位は標準水素電極の電位を基準にして示されます。水素より酸化力の強い材料の電位はプラスとなり、水素より還元力が強い材料の電位はマイナスとなります。したがって、電位の高い材料ほど酸化力が強く、電位の低い材料ほど還元力が強いということになります。同じ電位の電極というのはほとんどないため、二つの電極を組み合わせるだけで原理的にはどんな材料でも電池を構成することができます。このとき、電位の高い方の電極を正極(positive electrode)、低い方の電極を負極(negative electrode)と呼びます。電池を放電するときには正極でカソード反応(cathodic reaction:還元反応)が、負極でアノード反応(anodic reaction:酸化反応)が進行します。しかしながら、電池を充電するときには放電反応とは反対になり、正極上では酸化反応が、負極上では還元反応が進行することになります。したがって、電池の正極と負極をカソード(陰極)とアノード(陽極)と呼ぶことは誤りになります。正極、負極、陽極、陰極という呼び名は混在されがちですが、電池の電極は酸化力の強い方が正極、還元力の強い方が負極であると覚えておいてください。
標準状態から外れる条件での電位はネルンストの式で表されます。例えば、$$lOx+ne^−=mRed$$で電極反応が表されると、ネルンストの式は次のようになります。$$E=E^0+\frac{RT}{nF}ln\frac{a_{Ox}^l}{a_{Red}^m}$$電位Eは気体定数R、ファラデー定数Fを用いて、標準電極電位E0と酸化体Ox、還元体Redの活量、反応に関わる電子数n、温度Tによって表されます。
表 電極反応と標準電極電位
電極反応 | 標準電極電位[V] |
Li+/Li | −3.045 |
Na+/Na | −2.714 |
Mg2+/Mg | −2.363 |
Al3+/Al | −1.662 |
ZnO22−/Zn | −1.215 |
H2/OH− | −0.828 |
Cd(OH)2/Cd | −0.825 |
Zn2+/Zn | −0.763 |
Fe2+/Fe | −0.44 |
Cr3+/Cr2+ | −0.408 |
Cd2+/Cd | −0.403 |
PbSO4/Pb | −0.3588 |
Ni2+/Ni | −0.25 |
MnO2/MnOOH | 0.15 |
Cu2+/Cu | 0.337 |
Ag2O/Ag | 0.345 |
O2/OH− | 0.401 |
NiOOH/(NiOH)2 | 0.49 |
Fe3+/Fe2+ | 0.771 |
Ag+/Ag | 0.7991 |
Br2/Br− | 1.087 |
O2/H2O | 1.229 |
Cl2/Cl− | 1.3595 |
Ce4+/Ce3+ | 1.61 |
PbO2/PbSO4 | 1.685 |
F2/F− | 2.87 |
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