リチウムイオン電池の正極材料〜コバルト酸リチウム〜

コバルト酸リチウム 電気化学
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今回は、リチウムイオン電池の正極材料としてコバルト酸リチウム LiCoO2について説明します。LiCoO2は商品化された最初のリチウムイオン電池の正極材料であり、古くから研究開発が進められています。また、LiCoO2と同様の層状岩塩型化合物は関連化合物も近年多く開発され始めています。

コバルト酸リチウムの開発背景

リチウムイオン二次電池では正極と負極の間での電解質を経由したリチウムイオンの移動により電池反応が進行するため、放電状態、充電状態のどちらの状態においても、電解質中だけでなく正極と負極の電極材料のどちらかにリチウムイオンが含まれている必要があります。現在市販されているリチウムイオン電池では、一般的に負極材料として炭素材料が使われていますが、炭素材料にリチウムイオンを吸蔵した状態で製造することは難しく、またエネルギー的に不安定な材料状態になってしまう充電状態での電池製造は安全面から望ましくありません。このような背景から、正極材料にあらかじめリチウムイオンを含んだ放電状態での電池作製が要求されました。新たな正極材料としてTIS2などもありましたが負極にリチウムを含んだ安定な材料に対してしか用いることができず、別の正極材料の発見が望まれていました。そこでLiCoO2を正極材として用いたのがノーベル化学賞を受賞したグッドイナフ先生です。現在、商品化されているリチウムイオン電池の正極材料はほとんどがリチウムイオンを含んだ安定な酸化物であるLiCoO2をベースとしたものになっています。

正極材料としてのコバルト酸リチウム

LiCoO2はα-NaFeO2型と呼ばれる層状岩塩型構造であり、この構造では酸化物イオンが面心立方格子構造をとり、立方最密充填となっています。酸化物イオンが層状の面を構成し、その層間にリチウムイオンとコバルトイオンが一層おきに存在しています。すなわち、CoO6八面体からなる層間にリチウムイオンが存在するということになります。

リチウムイオンは、CoO6八面体からなる層間の二次元平面内を移動し(拡散)、電極/電解質界面で脱離挿入(電荷移動)が進行します。LiCoO2では酸化物イオンとコバルトイオンで構成された結晶構造が保たれたままリチウムイオンの脱離挿入がスムーズに起こるため、充放電反応の進行に伴うホスト材料の劣化が起こりにくく、良好なサイクル特性を示します。この際、平面方向の結晶子サイズの変化はそれほどありませんが、軸方向のサイズは膨張収縮します。しかしながら、この軸方向の結晶子サイズの変化は負極を黒鉛とした場合と逆の変化となるため、電池内の体積変化の緩和にも役立っています。また、リチウムイオンの拡散経路が二次元平面であることから拡散係数も三次元の拡散経路であるスピネル系化合物と比べて高くなっています。

充放電に伴う相転移

このようにリチウムイオンの固相内拡散という点でLiCoO2は非常に優秀であり、作動電位も高い(3.8〜4.0V vs.Li+/Li)という特長も持っていますが、充放電に伴う相変化という問題も抱えています。充電時のリチウムイオンの脱離量が0.5を超えると相転移を起こし(六方晶⇒単斜晶)、電位が4.2Vを超えて最終的には4.8Vまで達します。このような状態になるとLiCoO2の構造が不安定になり、コバルトイオンの電極/電解質界面からの溶出と電解液の酸化分解が起こる可能性があります。そのため、良好なサイクル特性で利用可能なリチウム量は0〜0.5付近に制限されます。リチウムイオンを全て脱離挿入すると274mAh/gの充放電容量が得られますが、実際には0.5程度の範囲で使用するため、120〜130mAh/g程度の充放電容量しか得られません。

別材料の検討

LiCoO2は酸化コバルトや水酸化コバルトなどのコバルト塩と炭酸リチウムなどのリチウム塩とを約800℃の高温で焼成することで容易に良質なものが合成できます。このため、実用化しやすく現在においても主要な材料として使用されています。しかしながら、コバルトは希少金属でありコストが高く、さらには環境規制などの問題から将来のさらなる量産化、大型化においてLiCoO2に続く第二の正極材料の開発が求められています。このような第二の正極材料に関する研究も盛んに行われていますが、LiCoO2を有効利用しようとする開発も盛んに行われています。それは0.5以上のリチウムイオンの脱離を可能にすることによる容量、電位、及びサイクル特性の向上です。構造の安定性からはコバルトイオンを他の元素(アルミニウム、マグネシウム、マンガン、ホウ素など)で置換する方法が有効ですが、これらは電気化学的に不活性で充放電容量の低下を招きます。そこで、LiCoO2そのものを用いた観点で近年盛んに研究されているものが金属酸化物などによる表面被覆です。これまで ZrO2、Al2O3、MgO、SiO2などによるLiCoO2の被覆が行われており、いずれも4.2Vを超えた電位で充放電サイクルを行っても未被覆のLiCoO2と比べて高いサイクル特性を示しています。この要因には、表面被覆による

  1. 物理的な相変化の抑制
  2. 電極/電解質界面からのコバルトイオンの溶出の抑制
  3. 界面抵抗増大の抑制

などが挙げられます。しかし、XRD測定による結果の一つとして表面被覆により相変化が抑制されるのではなく相変化が可逆に起こる、という結果も示されています。すなわち、コバルトイオンの溶出が抑制され、相変化の可逆性が保たれることを示唆しています。

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