リチウムイオン電池の正極材料

正極 電気化学
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今回はリチウムイオン電池の正極材料について説明します。近年、様々な活物質が正極材料として用いられていますが、ほとんどの材料で共通していることは反応に伴って基本構造が変化しないという点です。このことは結晶構造を安定化させ、充放電の際のサイクル性を向上させます。

代表的な正極材料

リチウムイオン電池の正極材料として要求される特性は、高エネルギー密度(高容量と高電位)、高いサイクル特性及びレート特性、低コスト、高い安全性などになります。その中で、高容量には結晶中のリチウムイオンの納まるべきサイト数が関係しており、高電位には結晶の電子構造が関係しています。また、レート特性の向上には、リチウムイオンが拡散可能な経路を持ちながら移動度が大きいことが必要であり、サイクル特性の向上には結晶の安定性が関係しています。これらリチウムイオンの収まるべきサイトや拡散経路を考えると、現在検討されている結晶構造は、層状岩塩型構造、スピネル型構造、オリビン構造の3種に大別されます。

コバルト酸リチウムとその他開発材料

リチウムイオン二次電池の正極材料には、開発当初から層状岩塩型構造のLiCoO2が使用されており(2019年 ノーベル化学賞を受賞したグッドイナフ先生が発見した材料の一つです)、現在でも主流の正極材料として使用されています。しかしながら、LiCoO2に用いられているコバルトはレアメタルと呼ばれる金属であり、埋蔵量が少なく生産地が局在していることから、供給面やコスト面が不安定になっています。実際に、コバルトの価格は近年高騰しており、リチウムイオン二次電池の需要増加もその原因を担っています。このような背景からコバルト以外の材料の開発も古くからされており、最近では希少金属を用いない代替材料の開発が活発に展開されています。その中でも代表的なものとして、コバルトよりも埋蔵量の多いニッケルもしくはマンガンを用いた、層状岩塩型構造のLiNiO2、スピネル型構造のLiMn2O4の開発が続けられています。現在では、LiNiO2では充電状態における構造の不安定化、LiMn2O4では高温における性能の劣化などが問題点として挙がっています。

活物質や電解質の安定性の制約により、正極活物質の充放電範囲は限られており、構造中のすべてのLiを利用することができません。LiCoO2, LiNiO2, LiMn2O4はそれぞれ$$LiCoO_2\rightleftharpoons Li_{0.4}CoO_2+0.6Li^++0.6e^−$$$$LiNiO_2\rightleftharpoons Li_{0.3}NiO_2+0.7Li^++0.7e^−$$$$LiMn_2O_4\rightleftharpoons Li_{0.3}Mn_2O_4+0.7Li^++0.7e^−$$と表される範囲で安定的に充放電が可能です。

また、それぞれの活物質におけるLi+/Li基準の平均放電電位はそれぞれ3.6V, 3.5V, 3.8V、容量密度は150mAh/g, 180mAh/g, 120mAh/gになります。そのため、エネルギー密度は平均電位と容量を掛けたものであるので、540 Wh/kg, 630Wh/kg, 456Wh/kgとなります。

これら正極活物質中には、反応の際にリチウムイオンが拡散可能なサイトが必要となります。LiCoO2, LiNiO2の層状岩塩型構造の場合は、二次元型の拡散サイトを持っています。一方、スピネル型構造のLiMn2O4の場合は、三次元のチャンネル構造を有しています。結晶構造におけるリチウムイオンの拡散サイトと収納サイトは、活物質の特性を決める重要な因子です。また、活物質の特性を決めるもう一つの重要な因子が電子構造であり、電池の作動電位や活物質の電子導電性に大きな影響を与えます。これらについては、また別記事で説明します。

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