電池の正極と負極、合剤電極

正極と負極 電気化学
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今回は電池の正極と負極について説明します。電極材料は起電物質となるため電池にとって最も重要な材料になりますが、実際の電池では両極とも合剤電極で構成されています。合剤電極の厚さは電池開発に重要な因子であり、電解質の導電率が高くなるほど電極厚みも大きくなります。

電池の構成材料

電池は電気化学的な酸化還元反応を利用するエネルギー変換デバイスです。https://konju-ceramic.com/secondary-battery-constitution/で説明したように、電池はエネルギーを上手く変換するために、酸化反応が進行する負極、還元反応が進行する正極、二つの反応を結びつけるイオン導電相、負極と正極を隔てる隔膜(セパレータ)、これらを入れる容器によって構成されます。これらの要素材料に望まれる特性を以下に示します。

  • 正極    ・・・  高電位、小電気化学当量、高安全性、格納性
  • 負極    ・・・  低電位、小電気化学当量、高安全性、格納性
  • 電解質   ・・・  高イオン導電率、高安定性
  • セパレータ ・・・  高イオン導電率、高安定性、高機械的強度
  • 容器    ・・・  高安定性、高機械的強度、高気密性

これらの要素材料の他にも電池の安全性と信頼性を得るため、いろいろな材料、部品が用いられています。

正極

正極には酸化剤が活物質として用いられます。正極の活物質は電位が高く電気化学当量の小さい材料が望まれます。塩素や酸素のような気体は電池内に閉じこめにくく、また電解液に溶解する活物質はセパレータを通過して負極に接触するのを抑制することが難しいため、実際の電池には適用されにくくなります。そのため、酸化物や硫化物、ハロゲン化物などの固体が正極として用いられることが実用電池では多くなっています。

また、二次電池とするためには電池反応が可逆でなければなりません。二次電池で反応が可逆であるということは、結晶形やモルフォロジー(形態)も含めて反応全体が可逆でなければならず、非常に難しい条件になります。例えば、鉛蓄電池では放電すると正極でも負極でも硫酸鉛が生成します。$$正極 : PbO_2+H_2SO_4+2H^++2e^−\longrightarrow PbSO_4+2H_2O$$$$負極 : Pb+SO_4^{2−}\longrightarrow PbSO_4+2e^−$$

この硫酸鉛を放置すると結晶化が進んで安定になり、正極を酸化鉛に戻すことが難しくなります。これはサルフェーションと呼ばれますが、この変化のために鉛蓄電池は放電状態で長時間放置すると再充電できなくなり、寿命がつきてしまいます。

二酸化鉛や鉛金属は硫酸水溶液への溶解度が低く電子導電性が比較的高い材料ですが、硫酸鉛は電子導電性がなく、また溶解度も非常に低い材料です。そのため、固体のPbSO4を固体のPbやPbO2に完全に戻すのは容易なことではありません。

負極

負極活物質は還元剤です。できるだけ電位が低く還元力が強い、電気化学当量の小さい材料が望ましいと考えられます。二次電池の負極活物質には金属が用いられることが多くなっていますが、水素吸蔵合金や炭素材料、酸化物などの挿入型電極も用いられています。

硫酸鉛を還元して鉛を析出させると放電前の鉛と同じモルフォロジーが得られます。しかしながら、亜鉛やリチウムを析出させると平滑には析出せずに樹枝状の析出物が発生します。これはデンドライトと呼ばれ、このような析出形態をとると、析出物の脱落や負極にまで伸びることによる短絡を起こす可能性があり、充放電効率を低下させるだけでなく、安全上の問題を引き起こすことも考えられます。金属負極は反応が単純で電気化学当量も大きくなりますが、析出形態の可逆性が大きな問題になっています。

合剤電極

電池の電極で進行する電気化学反応は電子導電体とイオン導電体の接触する界面で進行します。この反応を速くするためには反応速度を大きくすることが必要です。金属の析出・溶解の反応は基本的には反応速度は大きくなりますが、金属材料以外の電極反応の場合には反応自体の速度が遅いことも多くあります。そのような場合には、多孔性電極のようにして接触界面を増加させるような工夫を行います。例えば、活物質として粒径の小さい粉末を用い、これを集電体の上に塗布して多孔性電極とすることで電極表面積を飛躍的に増大させます。このとき、接触抵抗も含めた電子導電性が低い活物質の場合には抵抗が大きくなり、充放電時に電位分布が生じて粉末活物質の利用率が低くなります。これを避けるために炭素材料などを導電助剤として添加することがあります。また、粉体を安定に塗布するために安定なポリマーを結着剤として用いたりもします。

活物質と導電材の粉末と結着剤を電解液や有機溶媒で混練したものを電極合剤といいます。この合剤を金属箔や金属メッシュなどの集電体上に塗布することで合剤電極とします。このようにして作成した合剤電極が正常に働くためには、活物質が電子的に低抵抗で連結しており、かつ電解質が空隙に進入しイオンを運ぶイオン導電相と密着し、さらに良好なイオン導電パスが構成されなければなりません。イオン導電相の導電率はあまり高くないため、電池の充放電中には合剤電極中のイオン導電相にオーム損による電位分布が生じます。電極内の各点における電子導電相とイオン導電相の電位の差が電池反応の駆動力となります。したがって、オーム損が大きくて合剤電極内の電位分布が大きいと、電池内のロスが大きくなり、有効に作動することができる合剤電極の有効厚さが薄くなります。

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