材料系の特性を知るためにはその結合様式を理解することが重要です。https://konju-ceramic.com/electron-configuration/でも述べましたが、原子の結合には満たされていない最外殻の電子の状態が関係しています。今回は、セラミック材料に多くみられるイオン結合について説明します。
イオン結合
イオン結合(ionic bonding)は、ある原子が1個以上の電子を放出して他の原子がその電子を受けとり、全体として電気的中性を維持しながらそれぞれの原子が安定で満たされた電子殻をつくる結合様式になります。いくつかの例を以下に示します。
- NaCl
- Al2O3
NaCI の結合状態
NaCI の結合はほとんどイオン的になっています。Na原子は1s22s22p63s1の電子構造をもち、3s電子を放出すると安定なNe構造となります。CI原子は1s22s22p63s23p5の電子構造をもち、もう1個の電子があれば安定な Ar構造をとることができます。NaCl構造ではNa原子の電子が1個、CI 原子に移動してNaイオンとCIイオンを生じ、それら正負の電荷によるクーロン引力で結合しています。
Al2O3の結合状態
AI原子は1s22s22p63s23p1の電子構造をもち、3個の電子を放出すると安定な Ne構造のAI3+イオンを生じます。O原子は1s22s22p4の電子配置をもち、安定なNe構造をとるには2個の電子が必要です。2個のAI原子が電子を放出して3個のO原子に必要な電子を供給するとAl2O3が形成されます。
イオン半径と配位数
イオン結晶の構造はそれぞれの元素の電子数とイオン半径によって決まります。イオン半径(ionic radius)は配位数などによって影響を受けます。ここで配位数とは、ある原子(またはイオン)を取り囲んでいる最近接原子(またはイオン)の数のことを表します。
4配位、及び6配位のイオン半径を表1に示します。イオン半径は一般に陽イオンに比べて陰イオンが大きくなりますが、これは原子核の陽子の数に由来しています。例えば、Na+イオンであれば陽子11個に対して電子10個になり、F−イオンでは陽子9個に対して電子10個になります。そのため、陽子の数が多い陽イオンでは電子が原子核に引っ張られる力が大きくなりイオン半径が小さくなります。一方で、陰イオンでは陽イオンに比べ原子核に引っ張られる力が小さくイオン半径は小さくなります。
表1 6配位、4配位のときのイオン半径
イオン | 6配位のときのイオン半径 | 4配位のときのイオン半径 |
AI3+ | 0.53 | 0.39 |
Ca2+ | 1.00 | – |
Mg2+ | 0.72 | 0.49 |
Si4+ | 0.40 | 0.26 |
Ce4+ | 0.80 | – |
Co2+ | 0.74 | – |
Cr3+ | 0.62 | – |
Li+ | 0.74 | 0.59 |
Mn2+ | 0.67 | – |
Na+ | 1.02 | 0.99 |
Sr2+ | 1.16 | – |
Ti2+ | 0.86 | – |
Ti4+ | 0.61 | – |
Y3+ | 0.89 | – |
Zr4+ | 0.72 | – |
O2− | 1.40 | 1.38 |
Cl− | 1.81 | – |
I− | 2.20 | – |
F− | 1.33 | 1.31 |
配位数と構造
このイオンの相対的な大きさが配位数を決めています。陽イオンと陰イオンの大きさの比、R+/R−が0.155〜0.225のときには配位数3が最も安定で、陰イオンが陽イオンを三角形に取り囲む構造になっています。R+/R−が0.225〜0.414の間では4配位が最も安定で、陰イオンが陽イオンを四面体型に取り囲んでいます。R+/R−が 0.414〜0.732では陽イオンの周りに陰イオンが八面体型に6配位することが多く、R+/R−>0.732 の結晶では陽イオンの周りを8個の陰イオンが六面体型に取り囲んでいる構造が多くなっています。
具体的に、MgO, SiO2, Cr2O3における陽イオンの配位数について考えてみます。表1の値を用いると、
$$\frac{Mg^{2+}}{O^{2−}}=\frac{0.72}{1.40}=0.51 配位数:6$$$$\frac{Si^{4+}}{O^{2−}}=\frac{0.40}{1.40}=0.29 配位数:4$$$$\frac{Cr^{3+}}{O^{2−}}=\frac{0.62}{1.40}=0.44 配位数:6$$となります。
MgOはNaCl構造をとり、Mg2+イオンは6個のOで囲まれています。NaCl構造ではO2−イオンが立方最密充填配置をとっており、それらの八面体間隙をMg2+イオンが埋めていると考えることもできます。種々のイオン結晶の構造を表2に示します。
表2 イオン結晶の構造
構造名称 | 陰イオンの充填 | 陰イオンの配位数 | 陽イオンの配位数 | 材料例 |
岩塩型 | 立方最密充填 | 6 | 6 | NaCl,MgO,NiO,LiF |
せん亜鉛鉱型 | 立方最密充填 | 4 | 4 | ZnS,BeO,SiC |
ペロブスカイト型 | 立方最密充填 | 6 | 12, 6 | SrZrO3, BaTiO3 |
スピネル型 | 立方最密充填 | 4 | 4, 6 | MgAl2O3,ZnAl2O4 |
逆スピネル型 | 立方最密充填 | 4 | 4, 6, 4 | FeMgFeO4 |
CsCl型 | 単純立方 | 8 | 8 | CsCl, CsI |
ほたる石型 | 単純立方 | 4 | 8 | CaF2,ZrO2,CeO2 |
逆ほたる石型 | 立方最密充填 | 8 | 4 | Li2O, Na2O, |
ルチル型 | 歪み立方最密充填 | 3 | 6 | TiO2, VO2 |
ウルツ鉱型 | 六方最密充填 | 4 | 4 | ZnS, ZnO, SiC |
NiAs型 | 六方最密充填 | 6 | 6 | NiAs, FeS, CoSe |
コランダム型 | 六方最密充填 | 4 | 6 | Al2O3, Fe2O3 |
イルメナイト型 | 六方最密充填 | 4 | 6, 6 | FeTiO3, NiTiO3 |
かんらん石型 | 六方最密充填 | 4 | 6, 4 | Mg2SiO4,Fe2SiO4 |
純粋にイオン性の結晶では、結合は球殻状の電子分布確率をもつs殻に関係しており、等方的ではありますが実際にはある程度の共有性を含んでいます。それぞれの化合物のイオン性の程度は電気陰性度で推定でき、化合物中の原子の電気陰性度の差が大きいほどイオン性が大きくなります。ここで、電気陰性度(electronegativity)は、原子が電子を引き寄せる能力の尺度のことをいい、電子親和力とイオン化ポテンシャルの和にほとんど等しいものとなります。
1族原子(Li, Na, K,・・・)と7族原子(F, Cl, Br,・・・)との化合物は一般に強度が小さくなり、融点が低く硬度が小さいものになります。一方でMg2+, Al3+, Zr4+など荷電数の大きいイオンを含む結晶は結合が強く、大きい強度と高い融点、高い硬度を持つものが多くなります。イオン結合性とそれによってつくられているセラミック材料の性質は次のようにまとめることができます。
- 電子の供与体と受容体の組み合わせで電気的中性になっている。
- 結晶構造はイオンの大きさと電荷で決まり、密に充填するものが多い
- 結合に方向性がない。
- 可視波長で透明である。
- 赤外波長で吸収をもつ。
- 低温で電気伝導度が小さい。
- 高温でイオン導電性を示す。
- 7族陰イオンと金属イオンとの化合物(NaCl, LiF,・・・)はイオン性が大きい。
- イオンの電荷が大きいほどイオン結合の強度が増加する。
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