セラミックを学んだことのない人は「セラミックスと金属との違いは何か?」という疑問を持つと思います。セラミックのイメージは、脆くて壊れ易い、融点が高い、熱や電気を通さない、磁性体ではない、といったものでしょう。金属に関しては、延性と展性がある、熱や電気の導体、磁性をもつものがあるといったところだと思います。しかしながら、このような考え方はセラミックスと金属のどちらについても必ずしも正しいということではありません。実際にはセラミックスと金属を明確に区別する境界は存在しませんし、セラミックスに特有な性質と金属に特有な性質の両方を併せもつ中間的な化合物も存在します。
では、材料の性質とは何によって決まるのでしょうか。実はそのほとんどは、材料中に含まれている原子とそれらの結合様式に大きく支配されています。今回は、原子結合を考える上で必要な原子構造と電子配置について説明していきます。
量子殻と電子軌道
材料の性質は原子間の結合様式に大きく依存しています。それは言い換えると原子の電子配置によって支配されていると考えることができます。
量子殻と軌道
原子とは、正に荷電した原子核が負に荷電した電子によって囲まれている構造をしています。そして、電子のエネルギーはその電子が核の周りのどの電子殻に位置しているかによって異なります。それらは量子殻(quantum shells)もしくは電子殻と呼ばれており、それぞれの殻は主量子数nに関係しています。そして、n = 1, 2, 3,・・・において一つの殻内の電子の総数は2n2になります。したがって、最低のエネルギーの量子殻(n = 1)は2個の電子だけをもつことができ、これに続くより高いエネルギーの殻はそれぞれ8個(n = 2)、18 個 (n = 3)、32 個(n=4)の電子をもつことができるということになります。
また、同じ量子殻内の電子は近いエネルギーをもっていますが、いずれの2個の電子も同等にはなりません。そして、それらの電子を区別するために、殻は軌道と呼ばれる副殻に分けられます。電子軌道(orbital)とは電子対が殻内で核に対してどの位置に存在するかを示す確率を表します。
1番目の量子殻ではs軌道に2個の電子が存在し、核の周りに半径約0.5Åの球殻状の確率分布をもちます。それらの電子のエネルギーは等しくなりますが、スピンと呼ばれる磁気的な挙動は反対になります。
2番目の殻は8個の電子をもち、2個がs軌道に、6個がp軌道にあります。それらの電子は1番目の殻にある2個の電子より高いエネルギーを持ち、核から離れた軌道(Liの2s軌道だと半径約 3A )をもっています。また、p軌道は球殻状ではなく直交座標系の軸に似たダンベル状の確率分布をもっています。それらのp電子は同じ殻内のs電子よりわずかに高いエネルギーを持ち、殻が満たされている場合には6個の電子が反対のスピンをもつ対になってそれぞれの直交軸方向に入っています。
3番目の量子殻にはs軌道とp軌道のほかにd軌道があり、d軌道には10個の電子が入ります。4番目と5番目の殻にはs軌道、p軌道、d軌道のほかにf軌道があり、14個の電子が入ることができます。
この殻内における電子配置と電子の相対的エネルギーを示すために、簡単な表記法が使われます。それを用いることで、原子が結合する際の電子授受の順序を理解することができます。以下にその表記の例を示します。
- 酸素原子の電子配置
- 鉄原子の電子配置
- イットリウム原子の電子配置
原子の電子配置
酸素原子
酸素原子では8個の電子が1s22s22p4の電子配置をとっています。sやpの前の数字は量子殻を表し、sやpはそれぞれの殻における副殻を示します。上つきの数字はそれぞれの副殻にある電子の数であり、酸素では副殻1sと2sは満たされていますが、2pには2個の電子が不足していることがわかります。
鉄原子
原子番号が大きくなって電子の数が増えると、電子相互間および殻相互間のエネルギー差が減少して異なる量子数の殻間にエネルギーの重なりを生ずることがあります。例えば、鉄では3d副殻が満たされる前に4s副殻が満たされます。鉄原子の表記法を次に示します。
$$Fe 1s^22s^2p^63s^23p^64s^23d^6$$
イットリウム原子の電子配置
満たされていない殻は結合に大きく影響します。そのため、電子の表記法から結合に関与する電子がわかり、結合の様式を推定することができます。そこで、電子配置を表すときに満たされていない外殻だけを記載する場合もあります。例えば、鉄は3d64s2と略記されますが、これは3pまでの副殻が全て満たされていることを示しています。イットリウム原子の電子配置を全て記述すると$$1s^22s^2p^63s^23p^63d^{10}4s^24p^64d^15s^2$$になりますが、4d15s2または4d5s2と略記されることもあります。
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