今回はセラミックス材料の多形と転移について説明します。セラミックス材料はそのほとんどが多形と呼ばれるいくつもの結晶構造を持っています。この結晶構造が転移することで、製品状態に大きな影響を与えてしまいます。
多形転移とは
セラミックス材料における安定な結晶構造は次の条件で決定します。
- 電荷のバランス
- 原子(イオン)の相対的な大きさ
- 静電的な反発力
物質の温度や圧力が変わると原子間距離や原子振動の状態が変化するため、その構造が必ずしも安定であるとは限らなくなります。化学組成が同じで結晶構造が異なる物質を多形と呼び、ある構造から別の構造に変化することを多形転移(polymorphic transformation)といいます。
セラミック材料はほとんどが多形を持っているため、それによって材料の使用限界が決まる場合が多くなっています。例えば純粋なZrO2は室温では単斜晶になりますが、約1100°C で正方晶へ転移し、さらに2370°C で立方晶の蛍石構造へと変化します。それらの相転移には大きな体積変化を伴うので、材料内に内部応力を生じクラックの発生や強度の低下が起きてしまいます。この問題を解決するために、ZrO2に適当量のMgO、CaOまたはY2O3を加えた安定化ジルコニア(stabilized ZrO2)が開発されました。この材料は立方晶であり、加熱しても相転移を起こさないため広い温度範囲で使用することができます。
製品開発の際に適する材料を選定するためには、その材料が有害な相転移を起こさないことを確める必要があり、それにはまず平衡状態図を調べるのが最適です。平衡状態図に関してはこちらに簡単に説明していますので確認してみてください。使用する温度域に二つ以上の多形が存在する材料でも使用可能な場合があります。材料として重要なことは大きな体積変化が急激に発生しないことで、これは熱膨張曲線を調べればわかります。
セラミック材料は多くが多形を持っていますが、具体的にはSiO2, SiC, C, Si3N4, BN, TiO2, ZnS, BaTiO3, Al2SiO5, FeS2, As3O5等が代表的なものになります。
多形転移の種類
変位型転移
多形転移には二つの種類が存在します。1つ目は変位型転移(displacive transformation)で、結合角の変位など構造の変形によって生じ結合の破断は起こりません。この転移は通常はある決まった温度で急速に起こる可逆的な転移です。金属のマルテンサイト転移(martensite transformation)、BaTiO3の正方-立方転移、そしてZrO2の単斜-正方転移は変位型転移になります。珪酸塩セラミックスは変位型転移するものが多くあります。これらの高温型化合物は一般的に対称性が高く比容積と熱容量が大きく開かれた構造をもっていますが、低温型化合物は一般的につぶれた構造になっています。
再配列型転移
2つ目は再配列型転移(reconstructive transformation)と呼ばれ、この転移では結合が切断して新しい構造ができるため、変位型転移に比べてはるかに大きなエネルギーが必要になります。再配列型転移の転移速度は遅いため、転移温度域を急冷すると高温構造を凍結することが可能になります。
シリカ SiO2には変位型転移と再配列型転移の両方が関係してます。室温で安定なSiO2の多形は石英ですが、トリジマイトやクリストバライトも準安定相として存在します。これは相転移が再配列型で非常に遅く、通常は起こらないことに起因します。石英、トリジマイト、クリストバライトはどれも変位型転移をもち、高温型を冷却するとSiO4四面体相互の角度が変化して低温型となります。変位型転移の速度は大きいので転移を妨げることはできません。
SiO2の変位型転移には大きな体積変化を伴うため、クリストバライトと石英の応用範囲は狭くなっています。石英やクリストバライトを多量に含むセラミックスでは、転移温度を通過させるとクラックや強度の低下が発生します。高温用の珪石煉瓦の製造工程では、少量のCaCO3やCaOを融剤として加え、石英を融解してトリジマイトとして析出させます。これはトリジマイトが転移の際の収縮が小さく、煉瓦の破壊や劣化が起こり難いことに起因します。
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