セラミックは高温環境下でよく使われます。そのため、熱的性質は製品にとって重要なもので、材料開発に欠かせないものとなっています。今回は、比熱、熱容量、熱伝導度について説明します。
比熱と熱容量
単位質量の物質の温度を単位温度だけ上昇させるのに要する熱量を比熱(specific heat)といい、単位としてはcal/g・°Cで表します。また、熱容量(heat capacity)は物体の温度を単位温度だけ上昇させるのに要する熱量を表し、一様な物体では比熱と質量との積で計算できます。セラミック材料の比熱は 1000°C 程度までは温度とともに増加しますが、それ以上の温度での増加は非常に小さくなります。
熱伝導度
熱伝導度(thermal conductivity)は、材料中における熱の流れ易さを表す尺度になります。文字にすると少し複雑ですが、物体内部の等温面の単位面積を通り、これに垂直方向に単位時間に流れる熱量と、この方向における温度勾配との比のことをいい、単位としては cal/sec・℃・cm で表します。
次に熱伝導度に影響を及ぼす諸因子について説明します。熱の輸送量は存在する熱エネルギーの量と、物質中にある熱のキャリアの性質および消失量によって決まります。存在する熱エネルギーの量は比熱の関数になります。熱のキャリアは電子もしくはフォノンです。フォノンとは格子振動を量子化したもので、振動が大きくなるときにフォノンが増えることになります。また、熱のキャリアの消失量は散乱効果の関数になり、格子波の減衰距離であると考えられ、平均自由行程として表すことができます。平均自由行程とは、粒子が他の粒子に当たることなく進むことのできる距離のことを言います。つまり、上記のことから熱伝導度kは熱容量c、キャリアの量と速度v及び平均自由行程λに比例する、ということができます。$$k∝cvλ・・・(1)$$
金属では熱のキャリアは電子です。純粋な金属ではキャリアの数が多く、平均自由行程が長いので熱伝導度が大きくなりますが、合金では平均自由行程が減少するので熱伝導度が小さくなります。白金はおよそ1cal/sec・℃・cm前後の熱伝導度を持っています。
また、ほとんどの有機材料は熱伝導度が小さくなっています。ゴム、ポリスチレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリメチルメタアクリレート、テフロンなど、通常よく使われる高分子材料の熱伝導度は、0.0002〜0.0008 cal/sec・℃・cm程度です。高分子材料の熱伝導度は、金属や黒鉛など熱伝導性のよい材料の粉末を混合することで増加させることも可能ですが、他の性質も著しく変化してしまいます。
セラミックスにおける熱エネルギーの主なキャリアはフォノンと放射になります。単一元素もしくは似かよった原子量の元素から成る乱れの少ない構造のセラミックスは非常に大きな熱伝導度をもちます。ダイヤモンドの室温における熱伝導度は2.1 cal/sec・℃・cmでこれは銅の2倍以上になります。黒鉛は層状構造の化合物であるため、層内での結合は強固でこの方向の熱伝導度は大きい(2.0 cal/sec・℃・cm)のですが、層間の結合は弱く格子振動は減衰しやすいため、この方向の熱伝導度は小さくなります(0.6 cal/sec・℃・cm)。
BeO, SiC, B4C は近い原子量と大きさをもつ元素から成る熱伝導のよいセラミックスで、これらの材料では格子による散乱が小さいので格子振動は構造中を比較的容易に移動することができます。UO2や ThO2などでは陰イオンと陽イオンの大きさや原子量の差が大きく、格子による大きな散乱が生じて熱伝導度は BeO やSiCの1/10程度となってしまいます。よく使われるMgO, Al2O3及びTiO2などの材料はその間程度の熱伝導度になります。SiCは0.05〜0.1cal/sec・℃・cm程度、BeOは0.05〜1.0 cal/sec・℃・cm程度、Al2O3は0.01〜0.08cal/sec・℃・cm程度の熱伝導度です。
一般的に、固溶体の熱伝導度は小さくなります。Si2+, Al2+及びGe2+のイオン半径はそれぞれ0.26Å, 0.39Å及び0.40Åで互に置換固溶しやすくなっています。Mg2+とNi2+は大きさがほぼ等しく(6配位で0.72Åと0.69Å)、NiOとMgO(いずれも NaCl 構造)は互に任意の割り合いに置換固溶することができます。しかしながら、固溶体ではイオンの大きさや電子分布の僅かな差によって格子の歪を生じてフォノンの散乱が増加し、熱伝導度が小さくなります。またAl2O3やMgOに比べてMgAl2O4(スピネル)の熱伝導度は小さく、Al6Si2O13(ムライト)の熱伝導度はさらに小さくなります。
セラミック材料の熱伝導度は温度によって大きな影響を受けます。これは(1)式にあるパラメータと温度との関係を理解する必要があります。熱容量cは温度とともに増加するが高温では一定値に近づきます。キャリアの速度 vは比較的一定です。平均自由行程は温度に逆比例します。結晶性セラミックスではフォノンが主要なキャリアでλによる影響が支配的ですので、温度が高くなると熱伝導度は小さくなります。ガラスは乱れた構造をもち、λの値は室温でも小さく温度が増加してもあまり増加しません。ガラスでは比熱が熱伝導に大きく影響するため、ガラスの熱伝導度は一般に温度とともに大きくなります。
高温ではガラスや透明な結晶性セラミックス、多孔質セラミックスの熱伝導度は放射によって著しく増加します。放射は温度Tのべき乗に比例し、セラミック材料では一般にT3.5〜T5になります。MgO粉末や耐火煉瓦の熱伝導度が温度とともに増加するのは気孔における放射によるものです。
熱伝導度は多くの製品開発において材料を選択する際の重要な性質になります。熱伝導度が小さく高温で安定な材料は、金属の精錬、ガラスの熔融、電子材料の製造、食器の製造などにおける窯炉の内張りとして使用され、現在の工業技術を支えています。また、大きい熱伝導度は、省エネルギーのための熱交換器、ろう付けの治具、熱応力を最小に保つことが要求されるエンジンの部品などで要求されます。
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